その夜、淳子は仕事終わりに佐藤の部屋を訪れた。
オートロックの部屋。白い壁。男の一人暮らし特有の無機質な空気。
でも、その空間の中で、彼だけが熱を持っている。
「いらっしゃい。そんな固い顔して、女に戻れないよ?」
佐藤の指が淳子のコートのボタンにかかる。
ひとつ、ふたつ、音を立てて外されていくたびに、
スーツの下に隠していた体温が、空気に触れてあらわになっていく。
(……また、この人に……)
「ほら、スーツなんて脱いで。ここじゃ部長じゃないから」
強引でもなく、優しくもなく、ただ当然のように。
その自然さが、逆に心を支配する。
鏡の前で背中のファスナーを下ろされながら、
自分が服を脱がされていくことにもはや何の抵抗もしていないことに淳子は気づいていた。
奥の部屋から男の笑い声が、聞こえた。
「え……今日は、ふたりきりじゃ……?」
「ああ、ちょっとだけ。友達が来てて」
佐藤は笑っている。悪びれる様子もなく、いつも通りの調子で。
「気にしなくていいですよ。すぐ帰るんで」
(本当に……?)
でも、もう部屋の中に足を踏み入れていた。
そしてそこには──
ソファに座る、見知らぬ若い男が2人。
どちらも無遠慮な視線で、キャミソール姿の自分を眺めていた。
「こっち、部長の淳子さん。例の“人妻”ってやつね」
佐藤の紹介に、男たちはニヤける。
「マジで来たの? 佐藤、ホントにやってんなぁ」
「てか、全然イケるじゃん。年上感えろっ」
淳子の背筋が凍る。
心臓の鼓動が速くなる。
(なんで……? 佐藤、どういう……つもり……)
「……ごめんね。でも淳子さん、ちょっと見せてあげたくなったんだよ。俺が、どんな女を飼ってるのか」
佐藤が背後から、肩に手を置く。
指先が、甘く、そして冷たい。
(この人……本気で……)
佐藤が囁く。
「脱いで、見せてあげなよ。俺がどれだけお前を“女”にしたかって」
「……っ、む、無理よ、そんなの……」
でも、
男たちの前で戸惑い、顔を赤らめて立ち尽くす自分が──
恥ずかしくて、たまらなくて、でも逃げられないほど
火照っていた。
「ほら、俺の言うこと聞けないの? 誰のおかげで、オンナになれたんだっけ」
「……さ、佐藤」
震える指で、キャミソールの肩紐にかけた手。
見知らぬ視線にさらされる自分。
その瞬間──
“部長・淳子”は、完全に消えた。
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